酒母(酛)造り

日本酒は糖化(麹がお米のでんぷんを糖に変える)とアルコール発酵によって醸造されますが、糖化により生成された糖類をアルコールと炭酸ガスに変化させるのは酵母の役目となります。

次工程である
もろみ
造りで大量の米を発酵させるためには良質な酵母も大量に必要となります。酵母を大量に培養した日本酒の土台となる液体が酒母
しゅぼ

もと
)と呼ばれます。

酒造りは一麹
いちこうじ
二酛
にもと
三造り
さんつくり
と表現されるように酒母(酛)造りも大変重要な工程の一つです。

酵母は微生物であり、ほかの微生物や雑菌が入り込むとすぐに淘汰されてしまうのですが、酵母は酸性に強い特性があり酸性だとほかの微生物が繁殖できないので、酵母を培養するためには酒母を酸性に保つことが非常に重要です。

酒母を酸性に保つために使われるのが乳酸です。この乳酸をどのように取得するかで速醸系酒母
そくじょうけいしゅぼ
生酛系酒母
きもとけいしゅぼ
に分類されます。

速醸系酒母
そくじょうけいしゅぼ

速醸系酒母は醸造用の乳酸を直接添加することで造られた酒母のことです。酒母をすぐ酸性にできることから安定して酒母を育成することができます。酒母造りの期間は2週間程度で日本酒全体の約90%が速醸系酒母で製造されております。

速醸系酒母を用いると乳酸菌の副産物の影響が少ないため、香りが立ちやすく軽快でさっぱりした淡麗な味わいになる傾向があります。

生酛系酒母
きもとけいしゅぼ

生酛系酒母は酒蔵の中に生息する天然の乳酸菌を取り込むことによって造られた酒母のことです。乳酸菌が作り出す乳酸によって酒母を酸性にします。天然の乳酸菌を相手にすることから生酛系酒母は手間と時間がかかり、酒母造りの期間は約3週間から1ヶ月程度必要になります。

生酛系酒母は乳酸菌が乳酸以外にも様々な成分を作り出すため、濃醇なうまみと酸味のある味わいになる傾向があります。

生酛系酒母のうち伝統的な山卸し
やまおろし
という作業を行うものを生酛
きもと
、山卸しを行わないものを山廃
やまはい
と呼びます。

生酛
きもと

生酛
きもと
生酛造り
きもとづくり
)は生酛系酒母で山卸し(酒母に投入されたお米をすり潰す作業)を行う仕込みの呼び名です。一昔前までは精米技術が未熟だったため、糖化までの時間が長く雑菌などに侵されて酒母が悪影響を受けるリスクを下げるため、山卸しを行い糖化までの時間を短縮することが一般的でした。

山卸しは昼夜関係なく2~4時間ごとに作業を行う必要があり重労働です。最近の精米技術の向上などにより後述する山廃
やまはい
と比べ極端な味の違いがなくなったこともあり、生酛で造られる日本酒は日本酒全体の約2%となっております。

山廃
やまはい

山廃
やまはい
山廃仕込み
やまはいじこみ
)は生酛系酒母で山卸しを行わない仕込みの呼び名で、文字通り「山卸しを廃止」という意味です。

先述した精米技術の向上のほか、水麹
みずこうじ
という麹の持つ酵素を仕込み水に溶け込ませる工程を経ることで、山卸しを行わずとも同様の酒質が得られるということが科学的に明らかになったことから重労働である山卸しを廃止する蔵元が増えていきました。

蔵元によっては山卸しをすると酒母中の成分が均一になってバランスがよくなるといった意見や、酒母内の環境が変化するので味わいや香りにも影響が出るという意見もあり、酒母造りはとても興味深いです。

次回予告

次回は三造り
(さんつくり)
について掘り下げていきます。

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